自己選択で世界は嘘になる-『ウルトラヘヴン』

素晴らしい書評は以下↓
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2008/10/post-daee.html


最近こういう記事を発見。↓
彼女と愛とセックスと結婚について
http://anond.hatelabo.jp/20101122004732

今月、「好きっていう気持ち」と劇的な出会いをした。
http://anond.hatelabo.jp/20101122122943


二番目の記事中に、「好き」という気持ちの「証拠」という意味合いで表現されているのであろう、

自分の頭や身体が自律的に動くのと、何者かによって動かされるのが半々くらいで、そうなった。自分事と他人事が一緒になったような感じ。なんかもう、圧倒的な感じ。

という記述がある。自分が好きになろうというのではなく、自然発生的なものでなくては「本当の好き」ではないのだ。


本書『ウルトラヘブン』は(まだ1巻しか読んでいないが)、様々なドラッグにより手軽に気分がコントロールできるようになる近未来を舞台にした物語。つまり自分で気持ちを作れる世界。ここでたぶんみんなの頭にも疑問が浮かぶ。


「果たして、生まれてから死ぬまで自分で気持ちをコントロールし続けられたらそれは幸せなのだろうか。」


この疑問は映画『マトリックス』で、ネオが薬を選ぶシーンと、サイファー(坊主頭のゴツイおじさん)がエージェントに交渉するシーンとで投げかけている疑問とも似ている。サイファーには幸せな作られた世界が待っている。ネオには厳しい現実が待っている。主人公ネオは厳しい現実を選ぶのだが、それは作られた世界を拒否するということだ。


また、鬼頭莫宏の『殻都市の夢』に出てくるホレ薬の話とも似ている。
心を自覚することの難しさ‐『殻都市の夢』
http://d.hatena.ne.jp/kojitya/20091117/1258453081


作られたものではなく、自然発生的なものを「正しいもの」として認識する心性はどこから来るのだろう。言ってしまえばホレ薬で好きになっても「好き」には変わらないはずだ。しかし、「ホレ薬を飲んでしまったために本当の自分の気持ちに疑いを持ってしまった少年」の気持ちは非常によくわかる。


今後続きを読む中で、著者なりのその答えが示されているかどうかはわからない。1巻の時点ではそこに焦点を当てているのか判然としなかった。だが、自分にとって非常に気になるテーマなので今後も追っていきたい漫画である。


ちなみに表現力もスゴイ。ドラッグによるトリップの図が半端じゃない。この物語が漫画というフォーマットでなければならない理由がよくわかる。小説でも映画でもダメだろう。(映画だと多分視覚効果とかで気持ち悪くなって倒れる人多数かと。ピカチュウどころじゃない。)


自己選択で世界は嘘になるのか。脳まで操れる時代になったとき、自分は何をもって「自分」という意識を持つのか。そんな疑問を持つ方は是非。

ウルトラヘヴン (1) (ビームコミックス)

ウルトラヘヴン (1) (ビームコミックス)