図書館について考えた

図書館についてのこんな記事が話題になっていた。↓


「図書館貸し出し猶予を…小説家が巻末にお願い」
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20110225-OYT1T00650.htm


正直自分も図書館についてしっかりとした考えや立場を持つに至ってはいないが、本の業界に勤めているのでブックマーカーの皆様にも多少情報提供できるかと思い書いてみた次第です。時間がないのでソース出しません。気になるところは調べていただけるとうれしいです。


まず、図書館はどれくらい購入するのか。そして図書館利用者は、「次の作品の潜在購入者」なのか。
ちと文芸関係はどの程度かわからないけど、初版数が6000部ならたぶん1割の600程度が入っていると思う。44人待ちということは、超おおざっぱに26,400人が待っている。印税割合が1割らしいので、420万円くらいの収入がなくなっているように著者からは「見える」。この2万人以上の人たちの中で、「読んで良かったら買う」人たちと、「図書館がなかったら買う」人たちとどちらが多いのでしょうか。


出版業界の売り上げが凄い勢いで下がり続けている中、図書館利用者は増えています。これは単純に考えると結局お金の問題で図書館に行っている人が増えたからと言えそう。正直自分にはわからないんだけれども実感としては「図書館がなかったら買う」人の方が多いように感じる。
仮に図書館をプロモーションの場として考えるべきというなら、それこそ発売後すぐに読める必要はないんだから、著者の言う貸し出し開始までいくらか猶予つける案は妥当な落とし所に見える。館内利用のみにしたりとかのアイデアで対応を考えてもいいかもしれない。


次に印税安すぎないかという話。1割は正直高い方です。印税は印刷数を増やしたからって安くなるものじゃなく、原価にダイレクトに乗ってくるので仮に印税を3割にしましょう。ってことになれば、この場合本の価格は1600ではなく1900円くらいじゃないと採算合わなくなっちゃいます。別に出版社はぼろ儲けしてるわけじゃなく、ちゃんとほかのタイトルと価格で争ってます。特に文芸は出版点数も多く、資料的な要素が少なく娯楽的な要素が強いので、価格にはかなり敏感だと思われます。


また、出版社ががんばって自分の取り分を下げて印税率に回すと原価率が跳ね上がって今度は重版しにくくなっちゃいます。あと1000人は欲しいお客さんがいそうだけれども3000はつくらないと採算合わないしなぁ・・・となると、重版できません。結果読みたい人の所に本が届かなくなっちゃいます。本屋さんはほぼ全て委託で本を預かって売っているため、返品ができます。なので出版社は市中在庫に凄く敏感です。刷部数はマジで命取りになる場合があるので(例えばハリポタは途中から書店の買い切りになりました。1次的にでも返品がドバっとくると資金繰りが回らなくなって倒産しちゃいます。あきらかに会社の体力に見合わない売れ行きのタイトルでは委託は危険すぎるのです。)、ダイレクトに原価に乗ってくる印税にもとても敏感になります。


なんて少しでも皆様の知識に微力ながらでも貢献できたらと思った次第。


自分は図書館が不当に売り上げや印税を食い尽くしているとは思っていません。出版社は再販制度に守られている反面、逆に柔軟な価格操作ができません。本当は読みたいのに、深刻なお財布の問題で買えない人に対しても、やはり本は読んで欲しいのです。著者が食いっぱぐれたり、出版社が回らなくなったりするのも問題ですが、必要としている人に届かないのも問題です。再販制度が「書物などは文化遺産であり、その価値を保護する必要がある」という大義名分で稼動しているならば、その制度の稼動中は「みんなのその文化遺産にアクセスする権利」もいっしょに守る義務がこの業界にはあるのではないでしょうか。権利と義務はセットです。ってヤツです。


また、アクセスしやすい環境自体が日常読書する文化を創っていってるならば先行投資とも言えるし、著者はたくさん本を読むことで自分の職能を高めていっていると考えると、本を無料で貸してくれる図書館は衣食住以外の部分で著者を助けている部分もありそうだから、一概に敵視するのはどうだろうとも思う。(もちろん樋口毅宏さんが図書館を敵視している訳ではないと思う。ただ衣食住の部分で苦しいんだっていう話かと。)


いろいろな取り組みを実証していっていい落とし所がみつかるといいなぁと切に願っています。