社会遺伝子−『スキエンティア』

このふたつのマンガを一言で言えば、「マンガ版・世にも奇妙な物語」とでも表現するのが適当かと思う。
一つ捻りを加えた世界設定の中で普通の人を描く。するとどんな人間模様が描かれるのか。思考実験のようなマンガ。
しかし、「世にも奇妙な物語」のように唐突だったり単純なバッドエンドだったりはない。主人公たちはそれぞれそのちょっとだけ不思議な世界で、少しの気づきを得、成長していく話ばかり。読後は静かな感動をくれる暖かい短編集。


特に最終話「覚醒機」は多くの人をグッとさせるものがあるだろう。
短命になることと引換に、すべての能力を開花させる機械によって神のような視点を持った主人公の友人。主人公はその機械を使用することのない人生を選び、夢を捨て、その夢を捨てたことを少し引きずりながらごく普通のサラリーマン人生を送る。
友人が社会的成功をつかんだ後、二人は一度だけ出会うのだが、その際に友人が主人公に言うセリフが力強く感動を誘う。


ごく普通の毎日を丁寧に生きることを、ただ無意味に賞賛するのではなく、なぜ大事なのか、具体的に意味と価値のあるものとして感じさせてくれる素晴らしい作品だと感じた。
善意や優しさが、複雑に絡み合って次世代へ次の善意や優しさ産み繋げていく様が、まるで生物のDNAのようだ。生物としての遺伝子と社会としての遺伝子。2つの遺伝子を持っていることこそが人間の価値なのではないか。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のクライマックスで、主人公アムロが言ったセリフ、「だから俺達が人の心の光を見せなくちゃならないんだろ!」に富野由悠季が込めた意味もこういうことだったんじゃないかと思う。


この著者の他の作品もこんな感じの地味で味わい深い作品ばかりなので是非読んでみて下さい。


スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)